もう親の経験は通用しない! 予測不能な時代に「子供が本当に必要な力」を育むには?

もう親の経験は通用しない! 予測不能な時代に「子供が本当に必要な力」を育むには?
今までの当たり前が通用しなくなっている変化の時代。親の経験値や思い込みで子供の幸せな未来を狭めてしまわないためには? 鶴岡そらやすさんの「LGBTを通して子育てを考える」連載第3回目。

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溢れる専門用語と略字
言葉の真意を理解するには

このコロナ禍で、今まで聞いたことのないカタカナ語を見聞きするようになった。ソーシャルディスタンス、クラスター、オーバーシュート、パンデミック、フェーズ……日本語で表現できる言葉は、日本語でわかりやすく表現してほしい! と思うことがしばしばあるのだが、みなさんはいかがだろうか。ちなみに、今書いた言葉の意味を説明できる人はどのくらいいるのだろうか(私はネットで検索して調べて知った)。

カタカナ語だけではなく、アルファベットを並べた略語もあちこちで目にするようになった。例えばSDGs(エスディージーズ)、やLGBT。こちらはかなり認知度が上がってきているのではないだろうか。

LGBTに関するニュースも、ずいぶん取り上げられるようになってきたところだが、最近ではこのLGBTに代わってSOGI(ソジ)という言葉が使われ始めている。これはSexual Orientation and Gender Identityの略で、日本語にすると「性的指向(好きになる相手の性)と性自認(自分で認識している自分の性)」のことだ。 

LGBTは「レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー」の頭文字でできている。いわゆるセクシャルマイノリティと言われる代表的な人たちの存在を世の中に広めるためには有効な言葉なのだが、一方で、LGBTと、そうでない人たちという風に「別の世界の話」として分けて考えられてしまう危険性もある。

そこで登場した言葉がSOGIである。性的指向・性自認は、LGBTだけに関わるものではなく、誰にでも関係がある。「他人事、別世界の話」ではないということなのだ。

大人の経験値だけでは
未来が予測できない時代

次々新しい言葉が生まれてきて、ついていけないと感じる方もいるかもしれないが、私がここでお伝えしたいのは「用語を覚えてください」ということではない。今までの当たり前が当たり前ではなくなっている、変化の時代であるということに気づいて、考えるきっかけにできますよ、という提案である。

再びアルファベット略語を使わせていただくが、ここ数年はVUCA(ブーカ)の時代と言われるようになってきている。
V(Volatility:変動性)
U(Uncertainty:不確実性)
C(Complexity:複雑性)
A(Ambiguity:曖昧性)
社会環境が複雑に変化し、想定外の出来事が起き、誰にも予測ができない不透明な時代、ということだ。

自分はそんな変化も必要性も感じなかったという方も、このコロナ禍で今までの常識が覆されたことを実感しているだろう。多くの人が「今まで通り」では生きていけない状況になったのだ。前提、常識、予測、これまでの正攻法では通用しない。それらを取っ払って、新しいアイデア、生き方を考える必要が出てきた。コロナによって、誰もが等しく強制的にVUCA(ブーカ)を実感し、向き合うことになったのだ。

この先、ワクチン接種や治療薬などが開発されたとしても、コロナ前の世界に戻ることはないだろう。VUCA(ブーカ)の時代は今後も続くし、今以上に加速していくのではないだろうか。何が起きるかわからない。予測できない。そんな未来を、子供たちは生きていくことになる。

今までは、私たち大人が、経験値から未来を予測し、この先必要であろうと思われるものを与え、正しい道、最短距離を示して正解へと導く「教育」が主流だった。しかしこの先の時代は、最短距離も正解もわからない時代になる。

例えるならば、今までは整備された道路を通って、目的地に迷わず早くたどり着くための詳細な道案内を、先に歩いている大人が地図に書き込み、子供に手渡せばよかった。すでに多くの人が通り、安全だとわかっている道を同じようにたどることができれば安心だった。

柔軟な対応力で描く
自分だけの未来予想図

しかしこれからは、同じ道が通れるとは限らないのである。道なき道を自分で探し出し、通行止めになっていたら迂回路を見つけ、手探りでもいいからなんとか進み続けられるような力を子供自身が持つ必要がある。

……ということは、大人が手渡さなければいけないのは詳細な地図ではない。羅針盤、方位磁石、そして、太陽の位置や星を見て方角の見当をつけることができる思考力、考察力、判断力や、自分の知らない道を知っている人と情報交換し、力を合わせて仲間になることができるコミュニケーション能力だ。その力を使って、子供自身が自分の地図を完成させて行く時代なのだ。

そんな時代に、自分と違う価値観、世界観を持つ人と交われないのは、どれほどの痛手かを想像していただきたい。自分と同じ道しか知らない、同じ景色しか見たことがない人とだけ仲良くできても、地図は広がらない。差別、偏見、凝り固まった価値観による思い込みは、子供自身を不自由にさせてしまう。

男性だろうが女性だろうが、どこの国の人だろうが、障害があろうがなかろうが、誰を好きになろうが。そんなことで拒絶反応を持ってしまうのはもったいない。自分と違う点を持っている人こそ、自分には見えない世界のヒントを教えてくれる人だ。

そんなふうに、いろいろな人と繋がって、支え合いながら新しい世界を作るマインドを育てることができたら、子供たちの未来は、今以上に明るく大きく開けるのではないだろうか。その感覚をまずは大人である我々が持つことだ。

どんなルートを通って行こうと「幸せに生きられる未来」という最終ゴールは、みんな同じはずだから。

PROFILE

鶴岡そらやす
合同会社Be Brave代表。幼少期を父子家庭で育つ。公立小・中学校で教員として15年勤務し退職。授業をしない自立型学習塾を経営。生徒自身に気づきを促すコーチング力で、主体的に学ぶ姿勢を持った子供たちを育成。2018年、自身がトランスジェンダーであることを公表。企業向け講演や研修、LGBTや不登校などの保護者向けセミナーを行う。著書に「きみは世界でただひとりおやこで話すはじめてのLGBTs」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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FQ Kids VOL.07(2021年夏号)より転載

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