2023.10.13
2022.01.17
2023.02.01
ダイバーシティの概念が浸透するにつれ、近年では、個人の多様性が“認められ、活かされている状態”である「インクルージョン」の実現が望まれている。この流れはとどまることはないだろう。
今後子供たちはさらに、さまざまな違いを乗り越えて多様な他者たちと一緒に社会を作っていくことになる。そのために必要な視点や感性は、どんな形で伝えられるのだろうか? ソニーグループ株式会社が昨年12月に実施したワークショップを参考にしてみよう。
ソニーグループ株式会社は12月3日(土)、4日(日)に、ソニー・太陽株式会社の協力を得て、障がいのあるなしに関わらず共に学ぶ、インクルージョン・ワークショップ『ペットボトルと牛乳パックでつくるヘッドホン』を開催した。子供たちに、もの作りの楽しさや相互理解を深めてもらうプログラムだ。
ソニー・太陽はソニーの特例子会社で、障がいのある社員が全体の約6割在籍し、ソニーグループの高品質な製品作りの一翼を担っている。
ワークショップは、講師を務めるソニー・太陽の人事総務部 広報・CSR室室長の佐藤祐親さんのリードでスタート。集まった子供と保護者は61人で、会場は賑やかさとワクワクドキドキの高揚感でいっぱいに。
テーブルの上に用意された材料・道具は、ハサミやペットボトルなど。子供たちはペットボトルの硬い底を悪戦苦闘しながらハサミで切り取る。こんなシーンで心強いのはスタッフたちの力添えだ。切り取ったボトル底にネオジム磁石を装着する。
今度はボトルの口部分にホルマル線を巻いていく。根気のいる作業だが、地道な仕事にも子供たちは「ミシンのボビンみたい!」「キラキラしてる!」と感性豊かなリアクション。
いよいよ出来上がったヘッドホンを会場の音響セットに接続する。おそるおそる耳に当ててみると、「音楽が鳴ってる!」「すごい!」。見事、手作りヘッドホンが完成した。
保護者たちもわが子が作ったヘッドホンを試聴すると、「重低音もしっかり聞こえる」「温かみのある音がする!」と聴きごたえは予想以上だったようだ。
製作が終了すると、音の仕組みについて解説が行われ、最後には会場に設置しているスピーカーから多様な周波数で音を出し、可聴領域のテストが実施された。このテストにはダイバーシティの理解につながる仕掛けがある。
「聞こえてたら手を挙げてください」というスタッフの声に、全員が手を挙げた状態でスタート。ところが周波数を上げていくと、15kHzあたりから大人が聞こえなくなり手が下がっていく。一方、18kHzになっても、手を挙げ続けている子供もいて、音の不思議を全員で体感した。
人間は年齢が上がるにつれて、可聴周波数の上限が下がっていく。若者がたむろするのを防ぐために使われることもあるモスキート音は17kHz前後で、30代あたりから聞こえづらくなるといわれている。
もちろん可聴領域には個人差もある。それには正常/異常の優劣はない。それぞれ違うという事実があるだけだ。そして必要な情報は可聴領域や健聴・難聴に関わらず伝わるように、社会の仕組みを整えなければいけない。
聴こえ方の問題だけではなく、こうあればいいと思われていることが、ある人にとっては不利益な場合も実は多い。そんな他者の存在を想像し、その立場に立ってみることの必要性も、ワークショップを通して子供たちに伝わったのではないだろうか。
文:平井達也
編集部のオススメ記事
連載記事