2021.05.13
2023.01.18
2022.11.21
子供たちが自信を得られるのは、「できた!」の気持ちを強く感じられた時です。その気持ちは、日常生活でいろいろな体験を通して経験していくものですが、絵本を読んでもらっている時にも、ストーリーの中で主人公になりきって疑似体験することで、「できた!」を味わうことができます。
絵本『はじめてのおつかい』(筒井頼子/作、林明子/絵、福音館書店)は、読んでいる子供たちが山あり谷ありのストーリーに入り込み、いくつもの段階を踏んで、層の厚い自信を得られる一冊です。
『はじめてのおつかい』
あらすじ&非認知能力を伸ばすポイント
筒井頼子/作、林明子/絵、福音館書店
主人公の女の子・みいちゃんは、ママに牛乳のおつかいを頼まれて、1人で出かけていきます。100円玉を握りしめて向かう先は、坂のてっぺんのお店です。でも、途中で転んでしまったし、やっと着いたお店では店員さんがなかなかみいちゃんに気づいてくれません。果たして、無事におつかいを終えられるのでしょうか――。
文章に背中を押され、
難関を乗り越える自分をイメージする
みいちゃんが100円玉2枚を握りしめて、坂をかけ登ろうとするシーンでは、彼女は「すってーん!」とつまづき、お金が転がっていってしまいます。自信を得るきっかけとなる段階の1つ目が、ここです。
起き上がったみいちゃんの手の中には、100円玉が1枚、握られている様子。となると、もう1枚を探さなければいけません。文章には「くさのかげに、ぴかぴか ひかって、ころがっていました」とありますが、絵ではまだ拾われる前の光景が描かれています。
絵本の前の子供たちは、ここで文章に背中を押されて、まだ拾われていない100円玉を自分が拾い上げるイメージを強く持ちます。3~4歳を過ぎた子供の内側では、主人公になりきる自分と、物語を外から見つめる自分とが、並行して存在する時があります。ストーリー内で「無事に拾えた(できた!)」の気持ちを手にできる子も、たくさんいることでしょう。
その後、みいちゃんはいくつもの難関を越えて、たくさんの「できた!」を手にしていきます。
緊張の冒険を終えて得られる
安心感とたしかな自信
さて、大人は最終ページまで読み終わったら“このお話はおしまい”だと思いがちですよね。けれど絵本には、裏表紙まで物語が続いているものが少なくありません。この作品もそうです。
本編では帰宅が描かれませんが、おつかいの本当の終わりは、ママに牛乳を手渡すまでです。みいちゃんになりきって読んでいた子供たちの心が、どこで落ち着くかといえば、それは裏表紙です。家で牛乳を飲むみいちゃんたちの姿が、そこに描かれています。
この姿に子供たちは大きな安心を感じます。いくつもの「できた!」が実を結んだことを、ここでしっかり確認すると、緊張の冒険はめでたく幕を閉じるのです。その時、大きな自信が芽生えていることでしょう。
絵本ワークショップ研究家/ワークショッププランナー/著述家
寺島知春
『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)著者。東京学芸大学個人研究員。約400冊の絵本を読み聞かされて育った体験と、絵本編集者の経験とを軸に、2010年より絵本の専門家として各種メディアで執筆。東京学芸大学大学院で絵本とワークショップについての研究を開始し、2020年に修了した。現在は、絵本とワークショップに関する執筆や、幅広い年齢層に向けたアートワークショップ、各地での講演やゲスト講義を行う。「アトリエ游」主宰。
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Note:アトリエ游 てらしまちはる・寺島知春
公式サイト:あそぶ、育つ、癒される。アトリエ游
『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』
¥1,760(税込)
多岐にわたる非認知能力を、OECD(経済協力開発機構)による9つの分類をベースにしてわかりやすく紹介。絵本で非認知能力を伸ばすために重要なポイントや、子供が面白がる180冊などを詳しく解説している。
文:寺島知春
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