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ウェルビーイング経営専門コンサルタント
吉田 忍さん
wellonePJ株式会社代表取締役。NPO法人いきはぐ代表理事。ウェルビーイングの観点からのコーチングとコンサルティングを通して、大手・中小企業や自治体、学校現場のウェルビーイング向上をサポートしている。
まずは、本誌でもこれまで度々取り上げてきたウェルビーイングの定義について振り返りたい。ウェルビーイングとは、「身体的・精神的・社会的に」満たされた、持続的な「良い状態」のことだ。
身体の健康だけでなく、心の健やかさや、社会的なつながり、福祉なども含めた広い意味を持ち、「幸せ」と訳されることも多い。
同じく「幸せ」と訳される言葉に「ハピネス」があるが、これはもともと機会や運を意味する「ハプ(hap)」を語源としており、瞬間的な「嬉しい!」という感情を指す。
これに対してウェルビーイングは、「幸せだなあ」とじんわりと長く続く幸せだと、吉田さんは語る。
なぜ今、この概念が注目されているのか。それは、世界的に「経済(GDP)の数値は上がっていても、主観的な幸福度は上がっていない」というパラドックスに直面しているからだ。
引用:ウェルビーイング学会ウェルビーイングレポート2022
これは個人も同様で、お金や肩書きといった他人と比べられる幸せ(地位財)だけを追い求めても、一定以上は幸福度が上がらないことが研究からわかっている。
1人ひとりがより安心でき、より満足して生きられる社会にしていくためには、心身の健康や人とのつながりといったウェルビーイング(非地位財)を新しい“ものさし”にしていく必要がある。
社員が幸せだと、会社の業績も上がる――。そんな研究結果が次々と明らかになっている。ハーバード・ビジネス・レビューで公表された研究では、幸福度の高い社員は、創造性が3倍、生産性が31%、売上が37%アップするという結果が示された。これをきっかけに、社員のウェルビーイングを重視する企業が急増したという。
また、アメリカではウェルビーイング指標の高い企業の株価が市場平均を上回るというデータも。吉田さんはこの流れについて、「古くから言われてきた『働きがい』や『健康』の大切さが、客観的なデータという裏付けを得て、形を変えて戻ってきたともいえます」と説明する。
日本では「歯を食いしばる努力こそ美徳」という意識も根強い。しかし、「ウェルビーイングなチームは『ぬるま湯』だと誤解されがちですが、実際は『心理的安全性』が高いからこそ、困難な目標にも果敢にチャレンジできるんです」と吉田さんは語る。
「アドレナリンが出るような努力や挑戦を強いるだけでなく、ほっとできる時間や、人とのつながりをバランスよく取り入れることが大切です」。ウェルビーイングを大切にしている企業か否かは、今後の投資や転職の際の指標にもなっていくはずだ。
ウェルビーイング指標を重視する流れは、企業だけでなく自治体や教育現場にも広がりつつある。特に教育分野では、文部科学省が令和5年度からの「教育振興基本計画」において、政策の中心的指針としてウェルビーイングを盛り込んだことが大きな転換点となった。
吉田さんは「これを受けて、私のもとにも教育現場からの問い合わせが急増しています。先生方がウェルビーイングについて学ぶ研修を行ったり、学校運営の軸にウェルビーイングを据える私立学校が出てきたり、影響が広がっています」と語る。
今後は偏差値や知名度といった他人と比べられる指標(地位財)以外の要素が、学校選びの重要な基準になっていくだろう。
住環境においても同様だ。2024年からはデジタル庁が「地域幸福度(Well-Being)指標」を公開しており、子育て環境と幸福度が共に高い地域への移住が注目を集めている。
一方で吉田さんは、子育て世代に向けてこう提言する。「まずは、お父さん・お母さん自身が満たされていることが重要です。大人が幸せであってこそ、子どもも社会も幸せになれるのです」。
自分を後回しにせず、まず自分の心身をケアすること。それが、家族をウェルビーイングにする第一歩となる。
→教育・企業・自治体が連携し、「共創型ウェルビーイング社会」へ!
文:岡本いつか