【専門家おすすめ】自然やアートなど、非認知能力を育む疑似体験を楽しめる絵本3選

【専門家おすすめ】自然やアートなど、非認知能力を育む疑似体験を楽しめる絵本3選
絵本研究家であり、「非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180」の著者である寺島知春さんによる、おすすめ絵本紹介のコラム。今回は、「実体験とつながって楽しめる絵本」です。

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<目次>
1.書に親しんで、出かけよう
2.現実とのリンクで再発見も
3.未知への冒険は育ちに不可欠
4.実体験とつながって楽しめる絵本3選

 

書に親しんで、出かけよう

「書を捨てよ、町へ出よう」という言葉があります。本からの情報を手放して生の経験に身を投じよう、という意味合いですね。たしかにいくら物知りでも、借り物の知識ばかりでは本当にそれを使いこなすことはできませんから、なるほどその通りです。

けれど、こと絵本と子どもに関しては、「書に親しんで、出かけよう」くらいがちょうどいいと私は思います。子どもは成長・吸収の途上であり、情報の取り入れと実体験の数は同時並行で増えてほしいからです。それに家での絵本時間は、絵本を読む以外の日常生活の中にひょっこり顔を出すことがよくあるから、というのもあります。

絵本から子どもたちが得る情報には、知識はもちろん、さまざまな感情の疑似体験も含まれます。これらが日常に顔を出す例として、植物などの自然観察絵本を楽しんだ場合は、わかりやすいでしょう。

例えば、あさがおの変化を精密画でつぶさに見せる『あさがお』を読む時。子どもは、土の中で根が伸びる様子や、開花時にゆるんで広がっていく花びらの様子といった、知っているようで知らなかったあり様を目撃します。

その子は次にどこかであさがおを見かけた際に、画面の光景を思い出すかもしれません。「このあさがおは根やつるをじっくり伸ばして今朝やっと咲いたんだな」と想像しながら観察することは、知識の定着に加えて、自然への敬意や思いやりなども育みます。

その子は絵本を読んだ時に、絵の葉の表面を「うぶ毛が生えているみたい」と思って、空想の中でそっと触る疑似体験をしたかもしれません。その感触を目の前のあさがおで確かめることもできます。

つまり、絵本やそこでの空想が、実体験のきっかけになり得るのです。誰に気付かれずとも、これは育ちの階段を確かに上る動きです。子どもの頃の私も、幾度となく通過してきた覚えがあります。絵本が日常に顔を出すことの良さとは、これなのです。

現実とのリンクで再発見も

絵本の中だけの光景と思い込んでいたものが、現実に存在すると気付くのも、絵本と日常の交差の瞬間です。ねこたちが世界の名画に扮する『にゃんこと名画のマリアージュ』は、そんな可能性を秘めた一冊です。

この絵本は「元ネタ」の名画を知らなくても、物語として楽しめるようになっています。子どもは美術の知識がないのが普通なので、まずは純粋に登場人物の様子を追いかけて楽しむ子がほとんどでしょう。ねこたちの思い思いの姿、協力し合う姿に、小さな読者は楽観性や社交性を刺激されそうです。

そうして何度も読んだ頃に、大人が「今日は美術館に行ってみようよ」と誘ったら、どうなるでしょうか。子どもはそこで初めて、絵本の一コマとそっくりだけれどどこか違う、本物の名画を目の当たりにします。「あのねこは、この絵をまねしていたんだ!」と、生涯忘れない衝撃が走るかもしれません。気付きと驚きはやがて興味となり、新たな探求を連れてくることがあります。

未知への冒険は育ちに不可欠

子どもが自分の身体の使い方を学びとることや、さまざまな刺激に触れて五感を耕すことは、心身の可能性を豊かに広げます。よく感じ、よく反応する身体は、他者とのやりとりを生涯にわたって円滑にします。

出かけた先で見知らぬいろいろなものに触れることは、こうした育ちを力強く後押ししてくれます。絵本がそのきっかけになることは案外多いのです。だから、「書に親しんで、出かけよう」。夏休みだからはかどる絵本の楽しみ方でもあります。

実体験とつながって楽しめる
絵本3選

種をまくと、芽が出て、花が咲き……
知らなかった姿まで描ききる
精密画絵本

5歳ごろ〜誰でも

『あさがお』

荒井真紀/文・絵
金の星社 2011年

『ひまわり』

荒井真紀/文・絵
金の星社 2013年

荒井真紀さんの精密画は、優しく華やかな色使いの中に、じっくり時間をかけた観察が見てとれます。『あさがお』『ひまわり』は、ともに一つの植物が種から芽を出し、葉を広げ、花を咲かせて、次の種をつけるまでを描く作品です。

私たちがよく知るはずの植物の、夜明け前の数時間や見えない部分の構造といった、ほとんど知り得ない姿までつまびらかにするのです。精密画絵本の良さの一つは、作者が行った観察を、読者が絵の上でなぞって楽しめる点です。

作者の細部への視線は、細やかな筆の動きとなって画面上に再現されています。私たちがそれをなぞる時、現実や写真では見落としていたあれこれを発見できます。親子の話題は尽きません。


こねこが世界の名画に変身!?
やわらかな訳文も耳に心地いい

小学校低学年ごろ〜誰でも

『にゃんこと名画のマリアージュ』

ジェン・ベイリー/文、ニャンソンイ/絵、よしいかずみ/訳
化学同人 2022年

かあさんねこは考えました。こねこを立派に育てるには名作絵画を見に行くべきだ、と――。ゴッホ、葛飾北斎などの世界的に有名な美術作品の数々を、毛糸や魚をふんだんに使いながら、こねこのきょうだいが再現します。リズムよい訳文が、不思議な世界観を小気味よくまとめていて、音読も楽しい一冊です。

美術鑑賞は「難しそう」と敬遠されがちですが、絵本に親しんだ後なら垣根はだいぶ低くなるのでは?

作中の名画のうち、版画・富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」は所蔵美術館が各地にあるので、比較的お出かけしやすそうです。すぐに見られない作品はインターネット閲覧の手も。子どもの興味がくすぐられたら、好みの展覧会へ出かけてみてください。

※「対象年齢」は寺島知春先生の基準によるものです。各絵本の出版社が提示しているものとは異なる場合があります。

PROFILE

寺島知春

絵本研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学大学院修了、教育学修士。約400冊の絵本を毎晩読み聞かされて育ち、絵本編集者を経て現在に至る。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。ワークショップと絵本「アトリエ游」主宰。
HP:terashimachiharueh.wixsite.com/atelieru


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FQ Kids VOL.15(2023年夏号)より転載

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