2020.10.31
2024.01.03
2022.06.26
世界の中でも日本を暮らしやすい国だと思っている人も少なくないが、本当にそうだろうか? ユニセフが2020年に発表した、先進国の子供たちの精神的・身体的な健康と、学力・社会的スキルについてのランキングを含む「レポートカード16」では、日本の子供たちの精神的幸福度の低さが指摘されて大きな注目を集めたのだ。
止まらない少子化問題も重要だが、まずは今、育ちつつある子供の幸福を実現できるかが問われるところだ。
「レポートカード16」は、OECD、EUに加盟する41ヶ国を対象に行われた調査をまとめたものだ(調査指標によってはデータのない国があり、順位はデータがある国の中でのもの)。子供の幸福度を、精神的・身体的・スキルの3つの側面から見ており、精神的幸福度では「生活満足度」と「自殺率」の2つの指標が用いられている。どちらも日本では平均よりも悪い値が示され、なんと精神的幸福度は38ヶ国中37位という結果だったのだ。
「死亡率」と「過体重(肥満など)」を指標とした身体的幸福度においては、両指標において日本は好成績。身体的幸福度は1位に輝いた。
スキルは「数学・読解力分野の学力」と「社会的スキル(すぐに友達ができるか)」を指標としている。日本は、学力では5位だった一方、「すぐに友達ができる」と答えた子供の割合は、チリに次いで2番目に低かった。
このように指標により好順位のものと下位のものが極端に混在する状況を、ユニセフの専門家は「パラドックス」と指摘している。特に精神的幸福度の低さについて専門家からも強く懸念する声が寄せられた。
この結果もふまえて日本ユニセフ協会は3月、日本の子供たちの状況を改善するための仕組みとして、「こども家庭庁」「こども基本法」「子供コミッショナー」の3つの取り組みが重要であると発信した。
「こども家庭庁」は、これまで厚生労働省や内閣府などにまたがっていた子供に関する政策を一元的に進めるべく、来年4月に設置される。ユニセフのフォア事務局長(当時)は昨年11月、「各省庁の政策を調整する子供のための政府機関を設置することがとても重要です」「日本のみなさまが、子供のための新しい政府機関の創設を準備されていることに勇気づけられています」と述べている。
就学前の子供について現在、認定こども園は内閣府、幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省がそれぞれ所管している。今回のこども家庭庁設置にあたって、幼保一元化が見送られたとして不十分だとする声も一部にある。
また、「こども基本法」は日本も批准している「子どもの権利条約」に対応するものだ。ユニセフは、子どもの権利条約が「子供たちに影響するすべての事がらの基盤であり、指針であり、示唆を与えるべきグローバルな枠組み」であると考えている。基本法には、すべての子供の権利が守られ、幸福な生活を送ることができる社会を目指すと明記されている。
前述の「レポートカード16」で明らかにされた子供の幸福度の現状に照らして、どのような政策として実現されるか注目だ。パパママにとっては、事業主に「労働者の職業生活及び家庭生活の充実が図られるよう、必要な雇用環境の整備に努める」責務が課されたことも覚えておこう。
そして、子供コミッショナーとは、独立した立場で、子供の権利状況をモニタリングし、子供に関わる課題や施策について調査し、提言や勧告を行う仕組みだ。70ヶ国以上で、子供施策を担当する省庁とは別に設置されている。
参政権がない子供には、当事者でありながら施策にコミットすることが難しい。子どもの権利条約では、子供が意見を表明する権利の確保が定められた。最近は子供を代弁し権利を擁護しようとする「子供アドボカシー」の動きが高まっていることに期待できる。
児童手当や育児・介護休業法の改正、保育園の拡充など、国内での子育て支援は広がりを見せている。しかし、課題は妊娠・出産前後の限られた期間だけではない。子供の置かれた状況は日々変化していく。子供とその家族を柔軟に、継続的に支援していく仕組みが求められている。
今回の政策成立がその出発点となることを期待したい。日本の子供の幸福度のありようは、もはや待ったなしだ。
※参考:
1.ユニセフ報告書「レポートカード16」日本の子どもに関する結果(www.unicef.or.jp/report/20200902.html)
2.子どもの幸福度を高める3つの仕組み(www.unicef.or.jp/news/2022/0050.html)
文:平井達也
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