多様性の時代を生きる子供たちのために。LGBTを通して見直したい“親の当たり前”

多様性の時代を生きる子供たちのために。LGBTを通して見直したい“親の当たり前”
変化が激しい時代、子供たちにより良い未来を手渡すためには? 教育者であり、幼い頃からジェンダーに違和感を抱えて生きていた鶴岡そらやすさんとLGBTを通して“当たり前を改めて考える”連載第1回目。

これからの時代
子供たちに必要な力とは?

AIによる自動化が促進し、第4次産業革命とも言われる現代社会。人工知能は日々ものすごい速さで進化し、今までの働き方は変化しつつある。イギリス、オックスフォード大学の研究チームが発表した論文によると、20年後には今ある仕事の47%がAIに置き換えられると言われている。

20年後といえば、ちょうど今の子供たちが大人になり、社会に出て働き始める頃である。だからこそ、今の常識で子育てをしていくことが、果たして20年後を生きる子供たちにとって有効なのかどうかを、1度考えてみる必要がある。

では、どのような仕事がAIに置き換えられるのだろうか。特徴としては2点。
1.単純作業を繰り返す仕事(受付、案内係、オペレーター、レジ打ちなど)
2.判断基準が明確で、速さ・正確さを求められる仕事(会計監査、データ入力、保険の審査や銀行の融資など)

指示された通り、ペースを崩さず繰り返すことも、決まった基準通り、ミスを起こさず瞬時に判断することも、人間よりもAIが得意な分野。「言われたことを言われた通りにできる」「ルール通りに分類し、1つの答えを導きだす」などの、いわゆるテストの点数で測りやすい能力は、AIに取って代わられる力でもあるということになる。それを踏まえて、大学入試をはじめとする「テスト」の形も変わってきている(選択式より記述式が増えるなど)のだ。

もちろん「テストのため」ではなく、これからの時代を生きていく子供たちにとって、決められた1つの正解を早く導き出すような、多くの方が「勉強」と言われてイメージする「知識の習得」と同じくらい(もしかしたらそれ以上に)周りの変化に対応できる柔軟な思考と、状況や相手に応じて適切な対応ができるコミュニケーション能力、そして、他の人とは違うアイデアを生み出すことができる豊かな発想力を身につけることが重要になるのは、おわかりいただけるのではないだろうか。

さて、ここまでの話とこのコラムのテーマである「LGBT」に、一体何のつながりがあるのか。勘のいい方はすでになんとなく気がついていることと思うが「LGBT」について知り、考える事は、今まで考えたこともない当たり前を見直すことにつながる。

だから本コラムは「LGBTを考える」ではなく「LGBTを通して」子育てについて考える、としている。最近は、知ろうと思えば「LGBT」について様々な情報を手に入れることができる。ここでは私自身が当事者としての立場、そして教育者として長年子供たちと関わってきた立場から、あえて「今までの当たり前」を見直す1つの「入り口」としてLGBTを取り上げていく。

【LGBT】とは?

第1回の今回は、まず基礎的な知識として知っておいていただきたいLGBTという言葉の意味について解説する。ご存知の方も多いかもしれないが、確認していこう。

まず、LGBの3つは「性的指向(どの性を好きになるか)」による分類である。

L:レズビアン(女性同性愛者:女性として女性を好きになる)
G:ゲイ(主に男性同性愛者:男性として男性を好きになる)※ただし、海外では男女関係なくゲイと表現する場合もある
B:バイセクシャル(性的指向が男性、女性どちらにも向いている)
※この他にも、性的欲求がなかったり、性愛の対象を持たない人もいるが、ここではひとまず皆さんがよく耳にするであろう3つを紹介するに留めておく。

そしてT:トランスジェンダーは「性自認(ジェンダーアイデンティティ、自分の性をどう認識しているか)と身体の性が一致していない」方たちを表す言葉である。トランスジェンダーの中にも、さらに分類があるのだが、今回は簡単に「心と身体の性が一致していない状態」と理解してもらえれば良い。

多くの方は生まれ持った身体的特徴によって男女に分類され、そのことに違和感なく過ごしている。しかし、なかには、出生時に身体的構造によって割り当てられた性と、自分が認識している自分の性が一致しないことによって、生きづらさを抱えている人もいる。(さらに「男性でも女性でもない自分」という自認を持っている人もいるし、性自認は変わることもある、ということも付け加えておく)。

以上がLGBTについての初歩的な説明である。詳しく説明すると、ここでは紹介できないくらいの分類があるし、切り口を変えればまた違う見方もできる。ただ、分類できることが大事なわけではないし、これを全て覚えなければならないということでもない。「自分とは違う感覚を持った、色々な人がいるのだ」ということがわかっていただければ良いと思う。

当たり前を改めて見直し
子供たちにどんな未来を手渡すか

さて、これを読んでいるあなたはどうだろうか。今までに好きになった相手は、異性だけだろうか。同性に心を惹かれた事はなかっただろうか。はたまた、実は恋愛感情がない、好きになるとはどういうことなのかよくわからない、という方もいるかもしれない。

そして性自認は、性に関する身体の特徴と完全に一致しているだろうか。そもそも、いったいいつ、どうして、自分が男性・女性だと自認したのだろうか。「そんな当たり前のこと今まで考えたこともなかった」という人もいるだろう。

私たち大人は普段「当たり前を改めて考える」ことをほとんどしない。ところが、子供たちはある年齢になると、大人にすれば当たり前のことを「なんで? どうして?」と聞いてくる。それは、子供たちの中にはまだ当たり前がないからである。固定されていない柔軟な思考を持っているからこそ、次から次へと疑問が湧いてくるのだ。

その子供たちに「当たり前」を植え付けるのは、私も含めた大人である。だから今日から、少しだけ意識していただきたい。その当たり前を手渡すことで、子供の未来にどんな影響を与えるか。子供たちに見える世界を広げるのか、狭くするのか。

多様な人とのつながりを生むのか、つながりを断ち切るのか。可能性を引き出すのか、潰すのか。子供の心を自由にするのか、それとも不自由にするのか。

私はできることなら子供たちには、自由にのびのびと、多様な生き方をする人とのつながりを感じながら自分の可能性に制限をかけずに生きてほしいと思っている。きっと、これを読んでいるあなたもそうなのではないだろうか。

冒頭に書いたように、今私たちが当たり前だと思っている「常識」は、20年後も「常識」だとは限らない。考えたこともない「当たり前」を考え、子供たちにどんな未来を手渡すかを考える入り口として、これから1年かけて、読者の皆さんと一緒にLGBTを通して考えていきたい。

PROFILE

鶴岡そらやす
合同会社Be Brave代表。幼少期を父子家庭で育つ。公立小・中学校で教員として15年勤務し退職。授業をしない自立型学習塾を経営。生徒自身に気づきを促すコーチング力で、主体的に学ぶ姿勢を持った子供たちを育成。2018年、自身がトランスジェンダーであることを公表。企業向け講演や研修、LGBTや不登校などの保護者向けセミナーを行う。著書に「きみは世界でただひとり おやこで話すはじめてのLGBTs」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。


FQ kids VOL.05より転載

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