
2023.03.08
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2025.05.30
最近では、STEAM教育への関心の高まりとともに、子どもへのアート教育を大切にしたいと考える大人が増えています。美術・芸術の面白さ、豊かさをたっぷり享受しながら大人になってきた私としては、それらの持つ目に見えない「生きる力」を育てる動きに、世の中の目がやっと向いてきたのをとても嬉しく感じます。
一方で、親御さんからよく聞くのは「アートを子育てにといっても、何をしたらいいのかよくわからない」という声です。そんな時、私は意外だなあと驚きます。だって、ぴったりのツールは普通の日々の中に既に転がっているのですから。そう、絵本です。
絵本は、私たちにとって当たり前の存在です。特に子どものいる暮らしでは、存在感が大きいでしょう。時によだれだらけにされ、時に放り投げられる中で、1冊1冊が親子の気持ちのよりどころのような、頼れる道具としての意味合いを増していきます。
「道具」ととらえて扱っているとつい忘れがちですが、絵本は開けばすぐにアートに触れられるツールでもあります。多くの作品は、高い技術を持った作家たちが腕によりをかけて絵、文、構成を磨き上げた成果です。それが生活そのものといえるくらいに近しいところにあるのですから、「日常の中の芸術」といえるでしょう。
子どもにとって、絵本で美的体験ができるか否かは、物語の世界にどっぷり浸れるかの重要な材料になります。つまり、ちゃんと「うっとり」できることが大事なのです。
私自身の子どもの頃を思い浮かべると、絵本での「うっとり」にはいくつもの道すじがあったように思います。画面内の空間の広がりにうっとりして、物語に入り込んでいった作品もありました。絵と言葉の隙間に流れる空気感が心地よくて、のめりこむように楽しんだ作品もありました。
今回の選書では、子どもたちの視点でこうしたものを感じやすい2冊をピックアップしています。
さて、子どもたちがうっとりと美に心奪われる、抗いがたい魅力の1冊を探すのもまた、さほど難しくありません。彼らが気になって仕方なく、繰り返し「読んで」と持ってくるものの多くはそれです。無性に好きな作品に出会った子はきっと、わざわざ「教えよう」と大人が意気込むまでもなく、美の快感を既に知っています。
専門家がおすすめ!
豊かな芸術体験ができる絵本2選
3・4歳ごろ〜誰でも
『じっとみるの』
たちばなはるか 岩崎書店 2023年
女の子は、じっと見ます。ビー玉を、ソーダ水を、しゃぼん玉を。「しずかに じっとみるの」「すると わたしは なかに はいれるの」。言葉の通りに、彼女はビー玉の透き通ったガラスに入り込んで外の世界をのぞいたり、コップのふちに腰かけてシュワシュワしたソーダ水に足を浸したりできるのです。
現実と空想をテンポよく行き来する作品です。もしかしたら大人には突拍子もない話に思えるかもしれません。けれど、ここに描かれているのはまさに子どもの空想そのものだと私は感じます。目の前の現実からいとも簡単に想像の世界へ移れる子どもたちなら、この絵本にうっとりし、とりこになることでしょう。
5歳ごろ〜誰でも
『ダーラナのひ』
nakaban 偕成社 2021年
ダーラナは長い道を歩いてきて、どこかの浜辺にたどり着きました。すると、声が聞こえてきます。「なみうちぎわに きてごらん」「たきびをして あたたまっていきなさい」と。
ダーラナは枝を集め、マッチを探し、たき火の準備を始めます。自然がダーラナに手を貸し、小さな火のひとかけらはだんだんと勢いを増していきます。波の音と火の音の中で、夜は更けていって――。
旅先でたき火をする一夜の物語です。光と闇とが生き物のように躍動する画面は、目と心を釘付けにすることでしょう。静けさをじっと味わうような1冊です。たき火を経験したことのある子なら、一層思い入れ深く楽しめるかもしれません。
※「対象年齢」は寺島知春先生の基準によるものです。各絵本の出版社が提示しているものとは異なる場合があります。
寺島知春
絵本研究家/ワークショッププランナー/著述家。東京学芸大学大学院修了、元・同大個人研究員。約400冊の絵本を毎晩読み聞かされて育ち、絵本編集者を経て現在に至る。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)。ワークショップと絵本「アトリエ游」主宰。
FQ Kids VOL.20(2024年秋号)より転載