2021.02.18
2020.06.13
2020.09.08
最後に、シゲ先生は親たちに向けてこんなメッセージを贈ってくれた。
「保護者のみなさんを見ていると、いいお父さんになろう、いいお母さんになろうと一生懸命です。だから子供に何か問題行動的なことが見られると、みな自分自身を責めがちになります。だけど、お父さんお母さん、どうか自分を責めないでください。誰も悪くありません。今までお子さんに十分に寄り添ってきているのですから。これまで通りの愛情をもって、どうぞお子さんに接してください」。
子供に愛情を注ぐためにも、親は自分のことを後回しにしてはいけないと、シゲ先生は言う。
「親“らしく”あらねばと縛られて、自分より子供を優先する真面目な保護者の方々が大勢います。そんな時はギュッと握ったこぶしの力を、ふっと緩めてみてください。子育ては自己犠牲ではなく他者貢献です。ぜひ自分自身を優先する時間も大切にしてください」。
親“らしさ”の呪縛から解放してくれるのは、何色にも染まらない自由な精神を持つ子供の存在なのかもしれない。
“らしさ”から逃れ、
子供の「良さ」と「強み」に気付く
まずは、親自身も“らしさ”の押し付けで教育されてきたことに気づくことです。これができて初めて、本当の意味で子供と向き合うことができます。私の場合、子供と個人面談する時は、いつもまず「キミの良さと強みって何だろうね?」と一緒に考えます。私からは何かを決めつけて話したりはしません。ネガティブなものがでてきたら、一緒にリフレーミング※7します。あくまでも伴走するポジションです。
もし親子でお互いにまだ「良さ」も「強み」も見えていなかったら、「さあ一緒に探しに行こう!」と誘ってみましょう。でも大抵は、すでに子供の中にあります。
よく見る・よく聞く・よく話す
子供との関わり方でもし悩んでいたなら、子供を変えようとするのではなく、親自身がアプローチ法を変えてみると状況は変わってきます。例えば、子供への声がけのし方や関わり方を意識してみることです。 そのうえで大切なのが「よく見る・よく聞く・よく話す」の3つです。
「よく」とは「良く」「上手に」というよりも、「念を入れて」「十分に」「ていねいに」「深く」という意味です。親は、子供に100個できていることがあっても、できていなことばかりに目が行きがちです。減点法ではなく、加点法で見てあげるのがいいですね。
コンティニュアス・インプルーブメント
工場管理部門で使われている手法で、「継続的改善」という意味です。新入社員研修でも使われるフレーズですね。シンプルに「うまくいっていること」はそのまま続ければOK! 反対に「うまくいかなかったこと」は、やり方を変える。ただそれだけです。
この「継続的改善」を子育てでも習慣化すればいいのですが、「うまくいかなかったこと」は何か? なぜうまくいかなかったのか? わからないことだらけ。そんな時は周りに助けを求めましょう。学校には「教育相談※8の日」があるので、先生に相談してもいいですし、地域の教育相談センターに話を聞くのも◎。
※1 発達障害
発達障害者支援法には「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されている(文部科学省ホームページより抜粋)。
※2 LGBTQ
L:レズビアン(性自認が女性で、女性を愛する人)、G:ゲイ(性自認が男性で、男性を愛する人)、B:バイセクシュアル(性自認にかかわらず、男性も女性も愛する人)、T:トランスジェンダー(身体的性別と性自認が一致していない人)。Q:いずれにも当てはまらない「クエスチョニング」の人、または枠組み自体にとらわれない「クィア」な人という2つの意味持つ。
※3 隠れたカリキュラム
教育する側が意図する、しないに関わらず、学校生活を営むなかで、児童生徒自らが学びとっていく全ての事柄」を指す(文部科学省ホームページより抜粋)。性別による社会的な役割演技や役割意識も、教育機関の隠れたカリキュラムの中で培われることが多い。
※4 同調圧力
文部科学省による新学習指導要領の解説では、次のような反省点が書かれている。「(1) 学校生活や学習の基盤としての集団づくり:「望ましい集団活動」という用語では「連帯感」や「所属感」を大切にするあまり、ともすれば、教師の期待する児童像や集団からのはみ出しを許容しないことで、過度の同調圧力につながりかねないという問題もあった」(小学校学習指導要領平成29年告示 解説特別活動編より抜粋)。
※5 少数派
「少数派」「少数」「社会的少数派」。多数派の人の意見が優先され、社会的に弱い立場に置かれている「社会的弱者」という意味で使用されることもある。LGBTQはセクシャルマイノリティ。対義語はマジョリティ(「多数派」「社会的多数派」)。
※6 多数派同調バイアス
多数の人の行動に左右されること。災害発生時など、どうしていいかわからない時、周囲と同じ行動を取ることが最も安全と考える心理。英国の心理学者ジョン・リーチ博士の研究によると、落ち着いてすぐ行動できる人15%以下、我を失って泣き叫ぶ人15%以下、緊急時に脳の認知的情報処理機能のプロセスが混乱して自己コントロールを失いフリーズする人70~75%。
※7 リフレーミング(reframing)
心理療法や学校の授業、保健指導などでも活用されているもので、起こった出来事の枠組み(フレーム)を変えること。考え方・見方を変えるだけでイメージが180度変わる。例えば「あれこれ迷って決められない」→「自分の気持ちに正直」「納得のいくものを慎重に選ぶ性格」といった気づきを得て、自分や他人を理解したり肯定したりするのに役立つ。
※8 教育相談
文部科学省が教育相談に専門的に携わるスタッフを増やす施策を取ったことで、ずいぶん相談しやすい環境になってきている。教育における問題解決と、それを未然に防ぐという2つの役割がある。相談員は、保護者や他の教職員と利害関係がない客観的で中立的な立場にあり、相談内容に関する秘密も原則として守られる。
鈴木茂義さん
通称“シゲ先生”。1978年、茨城県生まれ。公立小学校非常勤講師で、専門は特別支援教育、教育相談、教育カウンセリングなど。セクシュアルマイノリティを公表しており、LGBTと教育について考える「虫めがねの会」の運営や、学校の研修講師、行政の仕事などを通じて活動中。Twitterアカウントはこちら。
文:脇谷美佳子
FQ Kids VOL.02(2020年春号)より転載
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