2023.09.13
2024.03.28
2022.10.17
メイン画像:©hikarufunyu
東京五輪スケートボードストリート女子銅メダリストの中山楓奈さん。富山県で暮らす普通の少女がスケートボードと出会ったのは8歳の時だった。
「家の近くにパークができて、父が連れて行ってくれました。初めてやった時にとにかく楽しくて、来週も行きたい! ってお願いしました(楓奈)」「スケボーを借りて、1番最初は2人で鬼ごっこをやりました。慎重派でビビリな楓奈がそう言ったので、余程楽しかったのだろうと思いましたね(父)」。
その後は板を買ったことをきっかけに、ムラサキスポーツのスクールに通い始めた。
「もっと難しいトリックを覚えたくて通い始めました。難しい分、怖さも大きかったけど、練習して乗り越えた時の達成感がすごかったです(楓奈)」「親が教えられることには限界があるので、小さい頃に専門的に指導を受けられたことは本当に良かったと思います(父)」。
その後はパークでコツコツと反復練習。洋志さん曰く「真面目」な性格が合っていたのかメキメキ上達していった。ひと昔前のスケートパークといえば、ちょっとやんちゃなお兄さんたちがいるようなイメージだが、小学生の楓奈さんは気後れしなかったのだろうか。
「パークには性別も年齢もバラバラな色んな人がいます。私はパークに入る時に挨拶するようにしているのですが、大人でも挨拶を返してくれるし、話してみると優しくて、教えてくれたりもしました。フロントサイドKグラインドもパークのお兄さんに教えてもらった技です(楓奈)」。
なんと代名詞のフロントサイドKグラインドもスケートパークでの交流から生まれたとのことだが、そんな風にパークで確実に技を磨いていき、14歳頃からは活躍の舞台を世界に移し始めた。
「直前の数日間は記憶がないほど緊張していた」という東京五輪では、見事予選を1位で通過。決勝では友人でもある西矢椛(もみじ)選手がベストトリック5本目終了時点でトップに。
4本目までフロントサイドKグラインドを2本成功して3位につけていた楓奈さんはここで、より高難易度のフロントサイドテールブラントスライドで逆転を狙うものの着地には失敗してしまった。
「1位までの点差もわずかでしたが、最後まで自分の見せたい技を決めたいと思ってこの技を選びました(楓奈)」「銅メダルはとても立派な結果。そして親としては何事にも後悔がないようにして欲しいと願っているので、それができてなにより良かったです(父)」と、振り返る。
東京五輪の熱狂から1年余り。2022年に日本開催のX Gamesで銀メダル、パリ五輪予選の開幕戦・ローマでは主要国際大会を初制覇した。
「最近は前ほど緊張しすぎなくなりました。技術面では、オリンピックで失敗したテールブラントは、その後の試合で成功できましたし、もっとやりたい技にも取り組んでいます(楓奈)」と、オリンピックでの自分を既に超えるほど成長は著しい。
「小さい頃はコツコツ練習することが好きではなかったですが、とにかく上手になりたくて毎日頑張りました。だからこそ今は人より少し高くオーリーができると思いますし、そのおかげで大きなセクションに入れるようになったので、あの時頑張って良かったです。
もし始めたいと思っている人がいたら、毎日いろんな壁があると思うけど、目の前の練習を頑張って欲しいと思います。(楓奈)」。
スケートボードを通して多くの人と出会い、数々の失敗や恐怖を乗り越え、常に自分の限界を超え続けてきた楓奈さん。「次の目標はパリ五輪です」と静かに語った彼女を、これからも応援したい。
アーバンスポーツの魅力
過去の自分を飛び越える!
究極の自己表現スポーツ
アメリカの子供たちの遊びから生まれたスケボー、フランスの若者が軍事訓練を真似たショーから発展したパルクールなど、アーバンスポーツは本質的に他者と競うということを前提としない。
スポーツとして進化した今も、プレイヤーたちは基本的に自己と向き合い、昨日の自分を超えること、個性の確立を通して成長することに喜びを感じ、重要視する「究極の自己表現」スポーツと言える。
大会では「自分がやりたい技を決める」ことが、勝つことと同じくらいの目標です。まだ練習で精度が高くない難しい技も本番で思いきって挑戦してみると、成功することもあります。
恐怖の壁を飛び越える!
幾多の失敗の上に成功がある
アーバンスポーツの試合を見ると、滑ったり、転んだり、落下したりと、失敗の多いスポーツと感じるだろう。それは「より高く、速く、華麗に」と競技を極める性質上当然のこと。何十回も何百回も失敗を重ね、時には恐怖心とも戦いながら挑戦を続け、1回の成功を勝ち取るのだ。
この「難しさゆえの面白さ」がアーバンスポーツの最大の魅力であり、乗り越えた時の嬉しさ、達成感は得難い経験となる。
難しい技はかっこいいけど、絶対にいきなり上手にはなりません。私もフロントサイドKグラインドが出来るまでにいっぱい失敗しましたが、その分成功した時の喜びは大きいです。
他者との壁を飛び越える!
ダイバーシティーへの寛容
スケボーやBMX、ブレイキンの根底に流れるのは、年齢も性別も国籍も関係なく「同じスポーツを好きな仲間」として多様性を認め合うストリートカルチャー。
例えばパークでは大人子供関係なく頑張って練習する人間に声を掛けたり、教えたり、転んだら励まし、技ができたら一緒に喜ぶといったことはよく見られる光景だ。ダイバーシティーを重視する今の時代の価値観が自然と養われていくだろう。
スケボーの「ライバルだけど友達」のような雰囲気が好きです。技に成功すると外国人選手も盛り上がったり、喜んでくれたりする時は嬉しくなります。
中山楓奈
©hikarufunyu
2005年6月17日生まれ。富山県出身。ムラサキスポーツ所属。ベストトリックでのダイナミックな滑りが印象的で、女子では珍しい高難度の「フロントサイドKグラインド」を得意とする。2021年の東京五輪では銅メダル、2022年のX Games Chiba 2022では銀メダルを獲得した。
「初めて乗った時からとにかく楽しかった。年齢や性別関係なく仲良くなれるスケボーが好きです」
文:松永敦子
FQKids VOL.12(2022年秋号)より転載
Sponsored by 株式会社ムラサキスポーツ
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