2020.11.15
2020.08.11
2021.08.18
文部科学省は「生きる力」を新たに定義した学習指導要領を2020年度からスタートさせた。具体的にはアクティブラーニングを通して「自ら課題を見つけ学び、考え、判断して行動する力」「健康で過ごすことや体力をつける」「他人を思いやる豊かな人間性」を養うことと位置づけられている。
この「生きる力」を育むものとしてスポーツや遊具のある公園、習い事、ワークショップなどは、どれも子供にとっては良質な体験だ。だが「大人がルール化した遊びよりも、海や川などの自然の遊び場でこそ子供の生きる力は伸びる」と教えてくれたのは東京成徳大学・応用心理学の石崎一記教授だ。
「自分で目標を定め解決する『生きる力』のベースとなるのは、知的探求です。人間は『不思議だな』と思ったことの理由を知ったときに知識が増えていきます。ですが大人の作った遊び場に慣れている子供は、『次なにをすればいいの?』と自ら遊ぶ力や好奇心が低くなりがちです。
子供というのは本来“遊びの発明家”。自ら遊びを創造する力を持っています。たとえば海という自然の中に飛び込んだら、子供は好奇心で波に触れてみたくなるでしょうし、砂浜にカニがいればどうにかして捕まえたくなる。
そういった“自然とのやりとり”が子供の心や頭の中にたくさんのものをもたらすので、予定調和でない自然の中で試行錯誤しながら遊ぶこと自体が子供の成長に繋がるのです」。
多くの海水浴場が閉鎖された昨年に比べ、今年は感染対策を取りながら開設するビーチも増えてきた。この夏こそは海遊びの機会を与えたいと思う親も多いだろう。
「海で何をするかよりも重要なのは、親子で楽しむ時間を共有することです。海で子供が遊ぶのを腕組みして見ているのではなく、パパもママも一緒に体験しましょう。その共有体験こそが子供の信頼感や安心感を生み、遊びへのチャレンジ精神を育みます。
そのときは、親が目標を決めたり先回りしたりせず、ぜひ同じ目線で楽しんでください。そして、子供にとっての遊びとは『この遊びをしたからこの力が育つ』という“薬”のようなものではなく、より総合的なもの。『わが子を将来生物学者にしたいから海で生き物遊びをさせよう』と親が目標を決めてしまうと、その時点で“作業”に感じ、途端に子供は興味を失ってしまいます。
ですが大好きなパパやママと『生き物すごいね』と砂浜で一緒に生き物を探した体験は宝物になるでしょう。それが将来花開くことに繋がったのなら、それは素晴らしいことです。
そしてなにより、海というのは不思議の宝庫です。『なぜプールと違って波は寄せたり引いたりするのか』『海の中ではなぜ昆布からダシが出ないのか』など知らないこと、わからないことの“好奇心の穴ぼこ”が、子供の頭の中にいっぱい開くことでしょう。
親はその時に『それは潮の満ち引きで……』などと語る必要はありません。『そうだね、不思議だね』と共感して不思議さを共有してあげてください。その“好奇心の穴ぼこ”が開いたまま育った子供は、やがて中学校などの授業で潮の満ち引きの話が出たときに『あの時のアレ、そうだったのか』と驚くことでしょう。
幼児期から児童期の体験でできた穴ぼこがそこで埋まる、つまり解決することこそが喜びなので、きっと興味を持って自ら学んでいくはずです。海などの自然には、不思議が山ほどあります。ぜひ自然体験を通して、子供の知識の大地に穴ぼこをたくさん開けてあげてください」。
海遊びが
子供の成長にもたらすもの
誰でも自分に合った
遊び方を見つけられる
遊ぶということは、感覚や認知など体のすべての機能を使って環境から刺激を受け取り、反応する「相互作用」をすること。海では色々な遊び方を創造できる。水遊びが苦手な子供が波の動きで遊んだり、赤ちゃんが砂浜の感触を楽しんだりと、誰でも目を輝かせる遊びを見つけられるのだ。
五感を使う喜びを感じられる
どこまでも続く地平線を眺めたり、潮の香りをかいだり、波の音を聞いたり、砂浜や波の感触を確かめたりと五感をフルに使うことができる。日常生活では言語的、認知的な関わり方になりがちな環境との関係だが、人間本来の感覚運動的な関わり方ができる。
好奇心、興味が刺激される
海には「なぜ海水はしょっぱいの」「なんで海は深いの」などわからないこと、不思議なことが無限にある。その「なぜ」の数だけ知識を増やすことができるので、海で芽生えた好奇心は、将来の学びの“土台”になるのだ。
自己決定力、有能感が満たされる
海を目の前にして、道具のない中で遊びを考えて工夫したり、初めてのことに挑戦したりすることで、自己決定力や自分はできるという有能感が育まれる。子供は生き生きとしていき、自己肯定感にも繋がる。
親子の絆が深まる
共通の体験や時間を共有することで、話題が豊かになり、お互いを尊敬し合い、認めあう関係が作れる。その際に親が子供の遊びを理解し、口出ししすぎないのが重要。適切に関わることで、親子の信頼関係はより深まる。
石崎一記教授
東京成徳大学応用心理学部教授。専門は発達心理学、環境教育など。自然体験が子供の発達にどのように影響を及ぼすかについて研究を行う。ネイチャーゲームなどを通して“自然を分かち合う”ことを体験する日本シェアリングネイチャー協会トレーナー。
文:松永敦子
FQ Kids VOL.07(2021年夏号)より転載
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